キャラクター

「いいですか、ターボさん。
準備運動もせず水の中に入ろうなどと
は言語道断。いくら身体能力に恵まれた
ウマ娘であれど、油断すれば
命に関わります。わかりますか？
まずは筋肉を伸ばし、しっかりと――」

「うう、わかったってばぁ。長いよ～」

「タンホイザさんも、
ボーッと見ていないで柔軟を！
屈伸と前屈は、しっかりと筋を意識して、
順序はこちらに書き出した通りに。
これを守って行えば、通常よりもさらに
大きな成果が得られるはずと――」

「は、はい～！」

2人のやり取りを見守っていた
マチカネタンホイザもまた、
イクノディクタスからありがたい
お説教を受けていた。

「脚を大切にしてください。
無茶をしてケガなど、絶対にしないように」

思わず「もうほっといてよ～」と
愚痴をこぼしたくなったツインターボも、
この一言に素直に従った。
……ただ説教をしたいわけではない。
彼女は仲間を想っている。だからこそ――

――それでは、もう1度初めから。

……こうして、何度も繰り返し
準備運動の大切さを叩き込んで
いるのだろう。

「えー！！」という声が、
今度はプール全体に響き渡り、
イクノディクタスのストレッチ指導は、
その後も長々と続いたのだった。

歓声に交じる笑い声と、
「またあいつらか」って生暖かい視線。
それこそいつものことだし、
慣れたものだけど――

（……そう、だよね。
私たちにだって、誰にだって、
チャンスはある。可能性はある）

足先に、グッと力が入った。
……不思議。もっとイケるって、
私の全身から訴えかけられてるみたい。
こういうのなんて言うんだっけ。
確か、パンプスがどうのって。

「おお！？　パーマー、ヤバヤバのヤバ！
めっちゃバイブス上がってんじゃん！」

あ、それそれ。
……うん、今まさにそんな気分。
観客席からのどよめきも、気持ちがいい。
勝てる、突っ走れ、止まるな。
全力で走れって、私が私に叫んでる。
でももしかしたら、途中で力尽きるかも――
なんて不安は、

「勝っちゃえーーーーーっ！！！
パーーーーーーマーーーーーーッ！！！！」

背中から聞こえた声に、
一瞬にして消されたよね。
走っている最中にライバルを
応援しちゃうなんて、どうかしてるって。

（ありがと、ヘリオス）

……ああ、熱くなってきた。
まだ私には、脚が残ってる。
行こう、どこまでもどこまでも先へ、
ギアを上げて、ギアを上げて、
限界まで上げて――！！

「見てなよ、これが私の大逃げだー！！」

勝利を願ってくれるのは、ただ1人だけ。
自分だけだと、少女は思い込んでいました。

――ライス、ライス、ライス、ライス……！

けれど全力で走りぬいた少女を迎えたのは、
まるで高い高い青空から舞い落ちるような、
たくさんのたくさんの声援でした。

「あ……あの、ええと」

少女は驚いて、戸惑って……それでも。
小さな、少女には大きな一歩を踏み出して。

「あ……ありがとう、ございます……っ！」

少女への声援は、いつまでもいつまでも
止むことはありませんでした――

優雅に手を振るメジロマックイーン。
激戦の直後だとわかるのは、
額を流れるままの汗くらいだ。

「けれどこの1着はまだ、夢の途中。
メジロ家の誇りを胸に、今後も華麗に
勝利を重ねて参りますわ！」

高貴なる宣誓に、歓声は最高潮。
令嬢然とした振る舞いで、背を向けた後――

（決めましたわ、今日はご褒美にケーキを
いただきますっ。なににしようかしら……）

――ご機嫌で悩む後ろ姿は、
まだあどけない少女だった。

アイスは　アイスは　とってもすてき！
ぬいぐるみアイスは　もーっとすてき！

クレーンでガブッて　揺らしてもつぶれない
コインを食べて　おっきくなったの？
つよくて　ムテキの　スーパーアイス！

アイスはぎゅっとしたら溶けちゃうよ
でもぬいぐるみはすりすりできる！
（かじって　なめても　味はしないよ！）

アイスは　アイスはなんでもすてき！
いちごにみかん　メロンにぶどう　あと――

「えへへ、アイスが食べたくなっちゃった！
いっしょに買いにいこーっ♪」

「……よしっ、まずは1本。
ライアンのタイムを目指して」

視線は、輝くターフの上。
――その横顔にまた、憧憬を抱く者がいる。

「さて、このくらいかな」

そうつぶやく彼女の視線の先には、
スポーツドリンクと数個の塩おにぎり。
あとそろっていないのは……。

「はぁっはぁっ……スペちゃん、急いで」

「ス、スズカさ……もう動け、ません～っ」

「ふふ、ご到着か。これでそろったね」

門限時刻を通り過ぎた時計の長針を一瞥し、
彼女は寮の玄関へ歩みを進める。
まずはしっかり門限破りの帰宅を注意して。
……たっぷり、その頑張りを労う。

それがここ、トレセン学園寮長の青春。

ファン感謝祭の準備は順風満帆！
当然だ――全ての采配を、
女帝と名高い彼女が握っているのだから。

「あれ、『ゴルシ特製焼きそば即売会』？
……こんな横断幕、だったっけ？」

「は……？」

女帝の雷が犯人のウマ娘を打つまで、
あと3秒――！

喧騒から離れた、プールサイド。
じっくりとストレッチをした甲斐もあり、
生徒たちは続々と帰り支度を始めている。

これでようやく静かに泳げ――

「イッダァーー！？　足づっだ～～ッ！？
たす、たすけっ！　タイシン～～！！」

「～～っ！　……だーかーらー！　ちゃんと
ストレッチしろって言ったでしょっ」

口とは裏腹に、腰を上げる少女。
プールに入るのは、まだ先になりそうだ。

U☆遊撃注意デスデス！（なになに？）
M☆マガジンぶっぱなし！（ふっふー！）
A☆アサルトで♪（ノックアウト～！）

TSUI☆GEKI　TSUI☆GEKI
( ﾟ∀ﾟ)o彡ﾟ ( ﾟ∀ﾟ)o彡ﾟ

「FOOOO！　ゆるにゃん可愛いよ～！
……ッ！？　え、ま、ちょ、目、合っ――」

※しばらくお待ちください※